メールマガジンVol.4

■目次
■■炎上から共感へ――「アテンション・デモクラシー」の可能性
■■オンライン動画で学ぶ「官民連携エキスパート」資格取得・第1号の方が出ました!

※日本GR協会の「GR(Government Relaions:ガバメント・リレーションズ)」の定義:社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法


■■炎上から共感へ――「アテンション・デモクラシー」の可能性

アテンション・デモクラシーとは?

現代社会において「注目・注意・関心(アテンション)」は、経済資源であると同時に政治資源でもあります。私たちは日々、SNSやメディアに溢れる情報の中で、何に耳を傾け、何を無視するかを選択しています。まさに「アテンション・エコノミー(注目経済)」とは、人々の関心を獲得し、それを広告や消費へと転換する仕組みを指す言葉です。GAFAに代表される巨大プラットフォームは、質の高い情報よりもこのアテンションを効率的に収集し、莫大な市場を築いてきました。
しかし、注目をめぐる競争は経済の領域にとどまりません。人々の目がどこに向くか、誰が注目され、誰が無視されるかは、公共空間や政治的意思決定の正統性にも直結します。そこで私は、新しい概念として「アテンション・デモクラシー」という言葉を提示したいと考えます。


アテンション・エコノミーからアテンション・デモクラシーへ

アテンション・エコノミーは「人々の注目は有限であり、だからこそ価値がある」という前提に立っています。広告主やメディアはもちろん、インフルエンサーや政治家までもが、この有限なリソースを奪い合っています。
しかしその「奪い合い」の結果は、必ずしも社会にとって健全なものではありません。センセーショナルな発言や過激な映像が注目を集め、誤情報や陰謀論さえも人々を引きつけてしまいます。発言の一部だけが切り取られたり、フェイク画像が拡散したりする現象は、まさに負の側面といえるでしょう。さらに、SNSの拡散力によってフィルター・バブルやエコー・チェンバーが形成され、異なる意見が届かなくなることも深刻な課題です。
そして、これは単なる情報の偏りにとどまらず、選挙戦の行方さえ左右するようになってきました。こうした状況を前に、私たちは「注目の分配」を単なる経済の問題ではなく、民主主義の問題としてとらえていく必要性があります。


大正デモクラシーとの比較

歴史を振り返れば、日本における大正デモクラシー(1910年代〜20年代)は、普通選挙運動や政党政治の発展を通じて「誰が政治に参加できるか」という問いに挑みました。つまりデモクラシーの核心は「参加の権利」を広げること、つまり「参加の量の拡大」にありました。
一方で、21世紀の私たちが直面しているのは「参加の質」の問題です。投票率の低下や政治的無関心は、単なる制度の不備ではなく、人々が公共問題に注目を向ける動機を失っていることの表れです。大正デモクラシーが「入口」を広げ、参加する人の数を増やす運動だったとすれば、アテンション・デモクラシーは「目を向ける対象をどう選び、どう共有するか」という「出口の質」を問う運動であるといえます。


アテンション・デモクラシーの要素

アテンション・デモクラシーを考える上では、少なくとも三つの要素が重要になります。

  1. 注目の公共性
    注目は個人の関心に見えて、実際には社会的資源です。多数の人々が特定の課題に注目すれば、それは政治的・経済的な力を持ち、政策や投資を動かす契機となります。したがって、注目の分配を公平にすることは民主主義の条件であり得ます。
  2. 情報環境の設計
    アルゴリズムは私たちの注目を無意識のうちに誘導します。だからこそ、プラットフォーム企業の透明性や説明責任が必要です。公共性の高い課題や多様な意見が届く仕組みをいかに整えるかが、アテンション・デモクラシーの鍵となります。
  3. 熟議への接続
    単なる「関心の喚起」だけでは民主主義は成立しません。集められた注目を熟議や意思決定に接続する制度や場の設計が欠かせません。たとえばオンライン討議の仕組みや、デジタル住民投票の実験などが考えられます。

アテンション・デモクラシーの負の側面

アテンション・デモクラシーの負の側面は、発言の切り取りやフェイク情報が瞬時に拡散し、炎上や分断が政治を左右してしまう点です。注目が公共課題よりも刺激的な話題に奪われると、民主主義の健全性が損なわれるわけです。

  1. 発言の切り取りとフェイク情報
    政治家の一部発言が切り取られ、意図的に歪められて拡散されることは日常化しています。フェイク画像や動画は一度広まれば回収が難しく、政治的信頼を容易に損ないます。
  2. SNS拡散と選挙戦の操作
    フィルター・バブルやエコー・チェンバーによって、有権者は自らの意見を強化する情報ばかりを浴びるようになっています。その結果、異なる意見が排除され、冷静な議論が成立しにくくなります。これは選挙戦の勝敗に直結する新たな「操作可能性」を生み出しています。
  3. 炎上政治の常態化
    注目を集めること自体が政治的資源となり、政策論争よりもスキャンダルや失言が政治を動かす構造が定着しつつあります。

伊東市・田久保市長騒動の示唆

静岡県伊東市の田久保真紀市長をめぐる学歴詐称疑惑は、その典型例です。SNS上では市長自身の発言や“陰謀論”めいた投稿、さらには市議会への挑発的な対応が次々と拡散されました。ここでは、真実の追及や政策課題の議論よりも、「注目を浴びる」ことそのものが政治を支配してしまっています。
この騒動は、過剰な注目によって政治プロセスが歪められる典型例です。発言の切り取り、SNS上の操作、拡散による世論形成——これらはすべてアテンション・デモクラシーの弊害です。テレビや新聞といったオールド・メディアが、負の側面を助長していることにも、留意しておく必要を感じます。


「注目の公共性」の可能性と具体的提案

一方で、私はアテンション・デモクラシーの可能性を、「注目の公共性」という概念に見出しています。もし注目を適切に公共的課題へと向けることができれば、短絡的な炎上ではなく、持続的な共感・協働が生まれるはずです。
この可能性を具現化するための方策を考えてみました。注目の公共性を社会課題の解決へと結びつけるためには、新たな制度設計が不可欠です。以下に、その具体的な方向性を示します

  1. アルゴリズムの透明化
    プラットフォーム企業に対し、情報拡散の基準を開示させる仕組みを法的に整備すべきです。
  2. 公的情報プラットフォームの構築
    かつての選挙ポスターや選挙公報のように、SNS等における「公的情報プラットフォーム」を国や自治体が整備・運営し、選挙や政策議論のための正確な情報を公平に届ける仕組みを確立するべきです。
  3. デジタル熟議の制度化
    市民がオンラインで政策討議に参加できる仕組みを導入し、注目を単なる炎上ではなく建設的な対話につなげるべきです。

◇炎上から共感へ――「アテンション・デモクラシー」の可能性

アテンション・デモクラシーはプラスの側面も負の側面もある、現代の民主主義が抱える危機を照らし出す象徴的な概念です。しかし、大正デモクラシーが時代の変化を映し出したように、この言葉もまた人々の問題意識を集める旗印となる可能性を秘めています。
もし「注目・アテンション」が、SNS上の経済論理だけに支配され続けるなら、社会は分断と衝突へと傾いていくでしょう。しかし、注目を公共的に分配し、社会課題に振り向けることができれば、民主主義は再び活力を取り戻します。アテンション・デモクラシーとは、その挑戦を共有するための新しい言葉なのです。


■■オンライン動画で学ぶ「官民連携エキスパート」資格取得・第1号の方が出ました!
行政(特に地方自治体)との連携にあたって必要な知識やノウハウが身につく【日本GR協会認定 官民連携エキスパート オンライン研修プログラム】(有償)のことは、もうご存知のことと思いますが(^ム^)、実は、この度、資格取得試験に合格された方が出ました!
実は「官民連携エキスパート」の動画コンテンツですが、まあまあなボリュームでして。今年の4月からスタートして、まさかこんなに早く資格取得第1号の方をお迎えできると思っていませんでした。認定試験の成績も抜群に良く(第2号の方も素晴らしい成績でした)、思わず難易度を再検討したくなってしまうほどでした。
今回、その方にインタビューをさせていただきましたので、ぜひぜひご覧くださいませ!

株式会社日本政策研究所 加藤和磨さん
「まずは自分が学ぶことで、社会起業家を支えることにつながると思った」

https://graj.org/study/kanmin_expert/cer_voice/