セッション4(スポンサーセッション):自治体DX〜事務をこなす自治体から、価値を創る自治体へ〜|第7回日本GRサミット

今、自治体に問われているのは「事務を回すこと・業務をこなすこと」ではなく、「地域に価値を生み出す力」です。

しかし現場では、慢性的な人手不足と属人化した業務が足かせとなり、未来志向の企画に十分な資源を割けていないのが実情です。

本セッションでは、DXを通じた業務構造の可視化と再設計により、人の役割を抜本的に見直す可能性を探ります。

首長のビジョンと実務判断、そして民間との協働によって、自治体はどこまで変われるのか。発想転換のヒントを提示します。(イベントHPより)

登壇者

吉田 信解(埼玉県 本庄市長)

白岩 孝夫(山形県 南陽市長)

田中 芙優(株式会社チェンジホールディングス上席執行役員 株式会社トラストバンク取締役)

モデレーター:吉田 雄人(元 神奈川県横須賀市長)

1.はじめに

登壇者の皆さんは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を単なる効率化ではなく、市民と向き合う時間を作るための手段としてDXを捉えるべきだと主張しました。

また、組織内の変革を促すためのトップの姿勢や、現場職員の熱量とマインドセットの重要性が具体例を交えて語られました。

全体を通して、行政と民間が連携し、いかにして自治体の新しい価値を創造していくべきかという、非常に重要な議論がなされるセッションとなりました。

2.セッション内容

以下のようなポイントについて、課題の共有と議論が実施されました。

DXの真の目的:事務効率化の先にある「市民と向き合う」姿勢

DXを単なるツールの導入(デジタル化)に留めず、その先にある「何のために行うか」という目的が重要であると強調されました。行政の仕事は煩雑な手続きが多く、それだけで手一杯になりがちですが、デジタル化によって事務を省力化することで、「困りごとを抱えた市民一人ひとりにしっかりと向き合う時間」を創出することがDXの本質的な目的です。

本庄市では、行政改革大綱に「DXによるスマート自治体の実現」を位置づけ、前例にとらわれず、変化や失敗を恐れず柔軟な発想で改革を進め、「市民に向き合うこと」を目指していると語られました。

組織的な課題:前例踏襲の打破とリソースの不足

DXを進める上での大きな壁として、「前例がないことへの躊躇」や「失敗への恐れ」といった組織文化が挙げられました。また、多くの自治体では物価高騰などの影響で予算や人員の余力がなく、「新しいことに取り組む時間的・精神的な余裕がない」という切実な実態も指摘されています。これに対し、まずは「仕事が楽になる」という成功体験を職員に実感させることが重要であると議論されました。

南陽市では、企画財政部門を「未来戦略課」に改称し、人口減少という最大の課題に対し、50年、100年先を見据えた戦略の中にDXを組み込んでいます。また、非常に高いスキルを持つ「尖った才能のある職員」を未来戦略課の主幹に抜擢し、さらに外部アドバイザーを登用することで、専門職員と一般職員の間のコミュニケーションの溝を埋める工夫をしています。

リーダーシップとマインドセット:スキルより「やる気(熱量)」

DXの成否は、技術的なスキルよりも「トップの姿勢」と「やる気(熱量)」に左右されるという点で見解が一致しました。トップダウンで指示するだけでなく、職員が自発的に議論を始めるよう仕向けるリーダーの「目配せや環境づくり」の重要性や、定年まで同じ仕事を続けるのではなく、変化を恐れない意識改革が必要であると話されました。

本庄市では、現場の「何か間違いがあったらどうするのか」という不安に対し、トップが細かく指示するのではなく、職員の間で自発的に議論が起きるよう粘り強く仕向けることを重要視しているとのことでした。

官民連携のあり方:信頼関係と「審美眼」

行政だけではDXを完結できないため、民間企業との連携が不可欠ですが、そこには行政の「公正・公平」と民間の「利益」の調和という難しさがあります。連携にあたっては、その企業が単に利益を追うだけでなく、「社会に貢献したいという志(自利利他)」を持っているかを見抜くリーダーの「審美眼」が求められます。また、行政が情報を内部に閉じ込めず、ノウハウを民間にも公開して共に進化する姿勢が重要です。

南陽市では、行政が情報を内部に閉じ込めず、自庁で開発したノウハウ(プロンプト等)を民間にも公開することなど、民間や地域全体で一緒にDXを進める姿勢を大切にしています。

DXによる成功体験を得るために必要とされるマインドセット

〇前例踏襲を疑い、「問いを立てる」習慣

「今までこうだったから」という思考停止(前例踏襲)を打破する意識が必要です。「なぜこうなっているのか?」という問いを立てる習慣を持ちもし現状が市民の感覚や実態と合わないのであれば、「どこを直せば良くなるのか」と疑問を持つことが、改善(楽になること)への第一歩となります。

〇「楽をするための努力」を厭わない姿勢

白岩市長は、「楽をするためには死ぬほど努力をしなければならない」という実体験を語っています。例えば、膨大なデータを処理するために最初に苦労してマクロを作成すれば、数十分の作業が1分で終わるようになります。このように、合理性を追求するために一時的な工夫や努力を惜しまない意識が、最終的な成功体験に繋がります。

〇従来のやり方を「壊す」勇気と合理性

「しなくてもいい苦労」を美徳とせず、合理性があるならば従来のやり方を壊しても良いという意識が重要です。間違いを恐れて現状に固執するのではなく、「事務的な作業で効率化できるものはどんどん進める」という割り切りが必要です。

3.まとめ

セッションを通じて、DXの「X(トランスフォーメーション)」、つまり変革の姿として、「縦割り行政の解消」や「人は人にしかできない、より創造的で温かみのある対人業務に注力できる行政組織への進化をすること」の重要性が特に印象に残りました。

セッションの終了にあたり、各登壇者より下記のようなまとめのコメントがありました。

  • 田中氏
    • 民間企業の立場から、官民連携を成功させるためには、「視座の高い(志のある)自治体」や「熱量があり、目的意識が明確な自治体」を見つけることが非常に重要であると語りました。単なる発注者・受注者の関係ではなく、一緒にサービスを作り上げていけるような「パートナー」としての関係性を築ける自治体と組むことが、最初の成功事例(ファースト事例)を作る鍵になると述べています。また、今回のサミット全体を通じて、「信頼」を築くための根底には「熱量」が不可欠であると再確認しました。
  • 白岩氏
    • 現状に疑問を持たなければ世の中は前進しないと説き、職員や市民に対して「なぜこうなっているのか?」という問いを立てる習慣を持つことの大切さを強調しました。当たり前だと思われている「前例踏襲」や「思考停止」の状態では市民の感覚から乖離してしまうため、もし現状が合わないのであれば、「なぜそうなっているのか」「どこを直せば良くなるのか」を常に考えるべきだという気づきを共有しました。
  • 吉田氏
    • 今回の登壇にあたって職員と議論を重ねた結果、自身のミッションを「楽になることで、楽しくなり、より人と向き合える市役所になること」と再定義しました。DXはあくまでそのためのツールであり、AIなどが発達したとしても、最終的に残るのは「人と人との関わり」です。煩雑な事務作業をデジタル化で省力化し、「最終的に人間同士が向き合うべき相談業務や課題解決に注力できる行政」を創ることが、本来あるべき姿であると結びました。

投稿者プロフィール

伊藤 健志
伊藤 健志(一社)日本GR協会 チーフGRオフィサー
日本GR協会では、官と民が連携して課題解決に向き合う取組を発信・普及させていくことを目指し、GR勉強会チームリーダー(2021年)、GRサミット企画・運営(2022年)、全国若手町村長会事務局支援チームリーダー(2023年~)などを担当。

民間企業に所属しながら、NPOの運営や組織基盤作りに従事した経験あり。アフリカの孤児支援を行う団体や、アジアの途上国でICTによる教育支援をする団体など社会課題に取り組むソーシャル・ベンチャーと伴走する活動を行った。

本業では行政や自治体のDXを推進する仕事をしており、民間・行政・地域といったセクターを超えた「繋がり」による課題解決を目指している。

2022年夏に広島県へ地方移住。瀬戸内海の多島美を眺めながら、海が近くにある暮らしを満喫している。