セッション1(ディールメイク):東京都の社会課題を官民連携で解決する、そのスピードと方法|第7回日本GRサミット
少子高齢化、防災、孤立、環境、都市競争力――世界都市・東京が直面する社会課題は、行政単独では解決できない段階に入っています。
今求められているのは、民間の技術や資源を単なる“発注↔︎受託”ではなく、政策形成段階から接続する戦略的なGovernment Relationsです。
本セッションでは、自治体の意思決定プロセスとDXの推進を軸に、実証から本格実装へと加速させる官民連携の設計思想を登壇者の皆さまに議論していただきました。
世界と競う東京が、いかに民間企業と公共性を両立させるのか。「東京型GRモデル」の可能性を探ります。
登壇者
高際みゆき(豊島区長)

新井康(品川区副区長)

中村勇太(株式会社ひとのね 代表取締役)

モデレーター:森田浩司(奈良県三宅町長 全国若手町村長会長)

1.はじめに
当セッションでは、「ディールメイク」、「東京都の社会基盤における日本的連携のスピードと方法」をテーマに、実証から社会実装へと加速する、官民連携の設計思想と意思決定プロセスについて議論が展開されました。
とりわけ、東京という大都市で公共性と民間力の両立を探る「東京型GRモデル」の最前線の状況が、自治体の区長、副区長から実際の事例を基に提示され、多面的な考察がなされたセッションとなりました。

2.セッション内容
以下のようなポイントについて、課題の共有と議論が実施されました。
官民の隔たり
官民には、同じ用語でも違う内容を指すというような言語差や価値観の違いなども存在しており、意思疎通に障壁が発生している。行政側も1分ピッチを実施するなどでビジネス用語を学び、ニーズとシーズのマッチングを試行するなど、歩み寄りを見せているが、官の努力だけではなく、課題・解決手法の可視化と「翻訳家」人材(官民の橋渡し)の育成・起用が重要となるだろう。
公平性・中立性と対話のプロセス
入札は公平だが、案件の仕様作成前から民間が行政側の課題を理解し、共に設計するというような対話も重要である。また、官としても、小さく実証して、ユーザー(住民)評価を得てから実際に施策化するというような柔軟な進め方が有効であると認識している。
豊島区の官民共創
- 民の力が強く、祭り・伝統文化が活発な地域である。官民連携の観点からは、「連携」から一歩進め、最初から共に考え作る「共創」を理念化した。企業は委託先ではなくパートナーという認識である。
- 「チームとしま」を設置し、約360社・1000人規模で横の情報共有を実現。民間側の強み・熱意を把握し、最適な相手と組む判断をしやすくし、区民提案・企業提案制度で共同事業を作り合理的に発注する仕組みができている。
- 企業選定においては「熱量」「実績」「地域貢献の明確な意思」を重視。知名度や規模では判断せず。共同実施は双方のHP・SNSで積極発信している
品川区の官民連携
- 従来の公平・公正な発注・委託中心から転換を模索している。包括連携協定は「結んで終わり」になりやすいことを課題と感じており、踏み込んだ共創が必要になるだろう。
- 行政の困り事を公開し民間提案を募る「官民共創プラットフォーム(デジタル)」を構築している。加えてリアルの場で地元企業と職員が対話し、役所用語にとらわれない工夫を推進している。
- 事例としては、「オンライン助産師サービス」を実証し施策化した。継続支援の価値に着目し全国の助産師とオンラインで接続するサービスとなる
今後の官民連携の在り方
- フラットな関係と小規模実証実験の実施
- 官民は、受発注の上下関係ではなく副業業・プロボノ等を活用したフラットな共創が有効であろう。また、予算をかけない実証で効果を示し、議会説明のハードルを下げることも肝要。
- 長期継続の仕組み
- 単年度契約の不安に対し、行政が長期視点で民間との共創が可能な調整をし、環境をつくること。それにより、民間の熱量・実現力維持に寄与することができる。豊島区の「企業提案制度」は、3年間は区が事業費を一部補助し、4年目以降は自走を求める仕組みで、熱意の実現力を重視している。
- 組織運営と成熟度
- 成功事例の横展開は地域差への対応が必要で、再現性と固有性のバランスが課題である。また、新規の施策は自治体の職員負担増や官民言語差による抵抗が生じやすく、部署ごとに成熟度に差がある。首長が重要案件の打合せに直接関与し、方針を示して巻き込むなどの運用が奏功するだろう
- 仲介・窓口機能
- 案件の仕様策定前から民間が関与できる仲介・橋渡し機能が重要。窓口プラットフォームが整備されている自治体は民間の参入ハードルが低い。距離が近く、顔が見える関係が共創を促進する。また、民間が行政に過度に依存せず、地域を自ら良くするという当事者としての姿勢が評価される。
3.まとめ
セッションを通じて、官民はこれまで以上に対話を重ね、お互いの立場を理解した上で、従来の主従のような関係から、対等なパートナーシップを構築することが肝要であるとの認識が共有されました。
今後は、自治体の課題解決にあたり、共創という新しいスタンスで臨むことが一層重要になると考えられます。
また、共創にあたり、官が重視するのはこれまで経済性、合理性だけでなく、当事者意識を持ち、地域の課題解決に官と共に挑むという、民側の「熱量」を重視しているという官の側の発言は特に印象に残りました。
セッションの終了にあたり、各登壇者より下記のようなまとめのコメントがありました。
- 中村氏
- 官行政側が、民の当たり前に合わせていく方向性の話もあったが、民側も行政の仕組みを理解していくっていうことも大事だと思っています
- 新井氏
- パブリック領域を官が独占している時代というのはもう終わりであり、今後は官民共創に移行していくのではないかと考えています。そうした状況で、本日お話しした官民が対話をすること、それを重ねていくことを大切にしていきたいと考えています。
- 高際氏
- 行政側は、まず自分たちが変わらないといけないという思いを強く持っています。まずは各部署で「考え抜く」。漫然とやるのではく、「本当に今でもそのやり方が正しいのかを考え抜いていこう」と伝えております。私たち自身も変わろうと思っているので、民間の皆様は、行政にも目を向けて、怖がらずに、近づいてきてほしいと考えています。
投稿者プロフィール

- (一社)日本GR協会 GRオフィサー
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1971年横浜生まれ。大学卒業後、独立システムSIerにて、大手通信会社向けの各種情報系サービスの開発を担当。その後、洋書洋雑誌輸入のECベンチャー、ネット金融グループでの新規事業開発を経て、2010年代は、大手IT企業内で、オープンイノベーションによる事業創出とベンチャー企業支援を担当。2020年以降は、ネット金融グループに復帰し、地方金融機関と連携した地方創生や地域の魅力発見による地場活性化に従事。地方創生の観点から、GRの重要性を考え、2025年よりGR協会に参加している。
1994年 早稲田大学政治経済学部政治学科卒
2011年 SBI大学院大学経営管理修士(専門職)

