【住民の健康増進】SIBを活用した検診受診率向上

自治体名東京都八王子市
企業・団体名株式会社キャンサースキャン、ケイスリー株式会社
事業分野医療

地域課題

八王子市は、東京都西部に位置する人口約58万人の自治体で、多摩地域では最も人口が多く、都内唯一の中核市です。他の多くの自治体と同様、八王子市でも市民のがん検診の受診率を上げるための取り組みを続けてきましたが、2017年5月、大腸がん検診・精密検査受診率向上事業において日本初のソーシャル・インパクト・ボンド(以下、SIB)導入モデルを実施しました。

八王子市ではもともとがん検診に力を入れており、科学的根拠に基づいて「胃がん」「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「子宮頸がん」の検診を実施しています。対象年齢の住民に勧奨通知を送付し、検診を受診してもらうのはもちろんのこと、受診のみが目的ではなく、がんの早期発見、さらにその後の治療につなげていくことが課題だと感じていたそうです。

さらに、八王子市は精度管理にも力を入れており、大腸がんを除く4つの検診では、精密検査の受診率が100%近くまで達成できているものの、大腸がんの受診率が他のがん検診と比較して高くない点に課題意識を持っており、対応策に行き詰まりを感じていたことが、この事業を始めるきっかけになりました。

事業内容

SIB事業、そしてPFS事業(Pay For Success:成果連動型民間委託契約方式)の定義は、経済産業省資料によると「事業の成果を評価して、成果に応じた報酬を支払う」という従来の行政と民間とは異なった契約のもとで実施する事業で、近年注目を集めています。解決すべき課題に対応した成果指標が設定され、その指標の達成度合いに応じて報酬が支払われるという契約形態のため、成果を図る指標をどのように設定して、何に基づいてお金を支払うか、金額はどう決めるのかというところが重要なポイントとなります。

当該事業において、実際にサービス提供を実施したのが、ソーシャルマーケティングやナッジ理論の手法を活用して、がん検診や特定健診の受診率を向上させる事業を全国の自治体と取り組んでいるキャンサースキャン社です。

(環境省が事務局の日本版ナッジ・ユニットの資料によると、「ナッジ」とは、行動科学の知見(行動インサイト)の活用により、「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」のこと))

この事業では、大腸がん検診受診勧奨及び大腸がん精密検査受診勧奨のサービスを提供しています。具体的には、対象となる住民一人ひとりの属性にあわせて通知を作成・送付することによって受診を促すという勧奨方法を取りました。

詳細については省略しますが、人は損失を回避するという「プロスペクト理論」を用いるなど、ソーシャルマーケティングやナッジ理論の手法を活用することによって、両サービスにおいて成果を出すことができたそうです。

事業成果

SIBの仕組みで民間から資金を募ったことで今後、大腸がん検診の推進に前向きな市民の方がファンドを買い、それにより市も検診を実施でき、市民の方の健康にも良くて金銭的なリターンもある、という状況をつくれたことで、経済全体を回す仕組みとして新しい可能性を作れたといいます。

最近はSIBやPFSありきの話が増えてきており、手段が目的化していることを危惧しているとのことでしたが、これは全く同感です。専門家の話を鵜呑みにはせず、自分たちの業務の中から、「課題と認識しつつも、成果が出るかどうかわからない領域」に対して適切な成果指標を検討し、説明責任を果たせるものにしてから進めていくことが非常に大切なのではないでしょうか。

八王子市の次のステップとしては現在、乳がん検診の受診率向上事業について、今回の経験を活かし、PFSによる委託契約の検討を進めているとのことでした。また、八王子市は今回の事業の報告書とともに、他の自治体も検診の実施を検討する際に使える「大腸がん検診支払い条件試算ツール」を公開しました。「実施したことが成果なのではなく、他の自治体にも展開していくことが成果だと思っている」とのことで、今回の取り組みの発信にも力を入れていきたいそうです。

参考資料