【GRサミット2025】セッションA(ルール・チェンジ):社会を動かす提言力 〜政策形成への新たなアプローチ〜

制度やルールを変える「ルールチェンジ」。それは特定の人だけが行うものではなく、いまや多様な立場の人々が関わる社会的プロセスへと進化している。従来のロビー活動型の政策提言から、SNSの活用や地域起点の共助型交通の実践、企業による能動的なガバメントリレーションズまで、多様な手法が紹介された。セッションでは、ルールチェンジを専門家に限らず、より多くの市民や若者が関与できる「開かれた政策形成」の必要性が繰り返し強調された。

キーワード:ガバメントリレーションズ、ルールチェンジ、政策提言、SNS、共助型交通、市民参加、地方創生


登壇者・モデレーター紹介

石山 アンジュ(一般社団法人 Public Meets Innovation 代表理事)

「シェア」をキーワードに、住まいや働き方、関係性の制度設計に取り組む。SNSを活用し、オープンな政策形成と市民の参加のあり方を実践。

黒田 岳士(GR Japan株式会社 アソシエイト・ディレクター)

企業の政府対応を支援するプロフェッショナル。政策形成の「受け身」ではなく「能動的」なガバメントリレーションズを提唱。

鈴木 康友(静岡県知事)

浜松市長・国会議員などを歴任。地方自治体の現場から、社会課題に応じた制度改革を数多く実行。市民との共創を軸とした地方創生を推進。

モデレーター:小野寺 浩太(株式会社 Next Relation 代表取締役CEO)

元カーリング選手であり、GRの支援を通じて政策と民間の橋渡しを行う。議論の要点を整理しながら、提言の技術や“ライトパーソン”の見極めの重要性を提示。


「提言力」のリアルな姿

● 石山アンジュさん:SNSで広がるルールメイキング

「かつてのロビー活動は“密室”で行われていたが、いまは“可視化”されてきた」と語る石山さん。自らの体験から、シェアハウスなどで育まれた価値観が制度に反映されていない現状に課題を感じ、市民目線から制度提言を始めた。SNSや政策スクールなどの手段を通じて、多くの市民が「ルールメイキング」に参加できる仕組みを築いてきた。多数決に流されるのではなく、ぶれない軸を持ち続けることの大切さも強調された。

「ルールメイキングは、特別な誰かの仕事じゃない。誰にでもスキルとして身につけられるもの。」

● 鈴木康友さん:地方こそ、ルールチェンジの最前線

静岡県知事である鈴木さんは、浜松市長時代の経験をもとに、コロナ禍でPayPayと連携した30%還元キャンペーンや、共助型のライドシェア制度導入の実践を紹介。過疎地域での移動手段確保のために、320の自治体首長と連携して国に政策提案を行うなど、地方自治体が制度の提案者として力を持つ可能性を示した。

「自治体はもっと、いろんなことができる。大事なのは、やる気と情熱、そして続けること。」

● 黒田岳士さん:企業も“待つ”から“動く”時代へ

黒田さんは、従来の企業のGRが“政府の動向に合わせて動く”スタイルだったことに触れ、「これからは“企業が提案する”時代」だと明言。多様なステークホルダーと関係性を築き、政策を動かす立場に企業もなることができるとし、「政府の行動を最適化する役割こそ、これからのGR」だと語った。

「社会に向けて声を上げ、制度に働きかけることは、企業にとっても成長のチャンス。」

● 小野寺浩太さん:適切な“相手”に届ける提言とは

モデレーターとして登壇者の話を紐解きながら、「誰に伝えるか=ライトパーソンの見極め」がルールチェンジの鍵だと語った。元カーリング日本代表としての経験を交え、「ただ主張を投げるのではなく、誰にどのタイミングでどう届けるか」が政策提言の成否を分けると指摘。

「制度を変えたいなら、“相手”を見極める力が必要になる。これはスポーツも政策も同じ。」


まとめ

1. 可視化された政策提言の重要性

SNSなどを通じて、かつての密室型ロビー活動がオープンで市民参加型のものへと変わってきた。制度提案は社会の“共有財”へ。

2. 地方主導の制度改革の実践

鈴木知事による地域課題に即した制度設計の例。地方からでもルールを動かすことができるという希望を提示。

3. アクティブなGRの必要性

黒田氏が提起した、企業から政府へ働きかける積極的な政策提言のスタイル。GRの役割が“受け身”から“提案”へ進化。

4. ルール形成は誰のものか

「制度は誰でもつくれる」。市民、企業、自治体が提言主体となれる社会のあり方が、全体を通じて浮かび上がった。

5. 政策形成に必要なスキルと姿勢

ぶれない姿勢、やり続ける情熱、関係性を築く力、制度を動かすにはテクニック以上に“人としての在り方”が問われる。


メッセージ

 〜ルールをつくるのは、遠い誰かじゃない〜

今回のセッションでは、これまでの“閉ざされたルールづくり”とはちがう、新しいカタチのルールチェンジがいくつも紹介されました。制度を変える力は、特別な誰かだけが持っているものじゃなくて、実は私たち一人ひとりの中にもある——。そんな気づきが、会場のあちこちで生まれていたように感じます。SNSで声をあげる。地域で動き出す。企業として提案する。そして、ちゃんと“届く相手”に伝える。それぞれのやり方は違っても、共通していたのは、「自分にもできるかもしれない」という感覚。ルールチェンジは、どこか遠くの話ではなくて、自分たちの暮らしをよりよくしていくための行動そのもの。そして、その力は、すでにわたしたちの手の中にあるのかもしれません。